「非正規労働者の権利実現全国会議」

■働くナビ:非正規労働の問題で学者や弁護士が全国組織を結成しました。
 (2010年1月18日『毎日新聞』東京朝刊)
http://mainichi.jp/life/today/news/20100118ddm013100015000c.html
 ◆非正規労働の問題で学者や弁護士が全国組織を結成しました。
 ◇雇用の域超え、社会問題に 賃金、処遇改善求め連携訴える
 労働問題や社会保障問題などに取り組む研究者や弁護士などが昨年、「非正規労働者の権利実現全国会議」(代表幹事、脇田滋・龍谷大教授)を結成した。非正規雇用労働の問題で、学者と実務家、市民がこうした組織を作るのは初めて。背景には、働く者の3人に1人以上が非正規で働くという現状に、雇用問題の域を超え社会問題として取り組むべきだとの危機感がある。
 ●女性、若年層の約半分
 昨年11月に開かれた結成総会では、非正規雇用の当事者が現状を報告し、シンポジウムが行われた。
 「雇用保険もない中で働いて仕事を失った。資格や技能を身につけ、正社員で働きたい」。大阪府内在住の24歳の男性は、そう言って言葉を詰まらせた。
 男性は母子家庭で育ち、病弱な母は入退院を繰り返した。不安定な暮らしの中で、高校1年の時に不登校になり中退。母が死亡してからは1人で働いて暮らしてきた。防水の会社などで契約社員としてまじめに働いてきたが、中卒の彼は正社員に登用されることはなく、景気の悪化で解雇された。雇用保険にも加入させてもらえなかったため、失業手当も受給できず、生活に行き詰まった。今は、生活保護で暮らす。求職活動を続け、10社以上の面接に応募したが、不採用だった。彼は「働くことは好きです。けれど、自分には安定した仕事はないのかと落ち込む日々」と話した。
 総会ではこのほか、銀行で派遣の期間制限を超えて働かされたのに直接雇用されずに雇い止めにされた女性や、賃金を一方的に減額された国立病院の非常勤職員らが現状を報告した。
 報告を受けたシンポでは、脇田教授が「非正規問題は当初、女性労働問題ととらえられたが、今ではそこに男性を含む若年者の問題に広がった」と分析。女性や若年者(15~24歳)の約2人に1人は非正規で働いており、社会問題としてとらえる必要性を強調した。
 また、西谷敏・大阪市立大名誉教授は、国際労働機関(ILO)がディーセントワーク(働きがいのある人間らしい労働)を提唱している点から「非正規の細切れの雇用で、一生仕事を探し続けるような働き方や不当な低賃金はディーセントワークではない。雇用の安定と(正社員との)均等な待遇が求められる」と述べた。
 社会保障が専門の木下秀夫・大阪市立大教授は、貧困との関連で非正規雇用労働の問題に言及。「貧困になってから生活保護で救うようなことでは非効率で、貧困になりにくい社会を目指すべきだ。そのためには雇用問題は切り離せない。不安定、低賃金の非正規労働は重大な問題と考えるべきだ」と述べ、幅広い連携の中で、非正規問題に対応する必要性を指摘した。
 ●10年春闘でも取り組み
 同会議は、多様な問題を抱え増え続ける非正規雇用労働者の支援に、労働法制や社会保障、年金制度などの面から研究、議論して提言し、国民的な運動につなげることを目指すとしている。会の呼び掛け人の一人で、消費者金融やクレジット問題に長年取り組んできた木村達也弁護士は「非正規雇用労働者は懸命に働きながら、賃金や処遇の低さ、将来への希望を持てないことなどに苦しんでいる。彼ら、彼女らの声なき声を大きくするために会を作った。労働運動にも影響を与える組織にしたい」と会を結成した意義を強調した。
 労働組合は10年春闘で、非正規問題への取り組みを掲げている。非正規問題は社会的な問題として広がり始めている。同会議への問い合わせは旬報法律事務所(03・3580・5311)の棗(なつめ)一郎弁護士へ。【東海林智】▲

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