■現代のことば――非常勤、非正規
           森 理恵(もり・りえ)

 (2010年1月12日『京都新聞』夕刊)
 今話題の「くびくびカフェ」に行った。噂[うわさ]どおりのおいしいコーヒー。店内のまきストーブと中華なべで煎[い]ったメキシコ・チアバス産の豆を、まきストーブで沸いたお湯を使って、丁寧に丁寧に淹[い]れてくれる。まきストーブはあたたかい。居合わせたのは初対面の方ばかりだったけれど、自然に流れるなごやかな会話。芸術のこと、洋服のこと、まちづくりのこと、そして、労働のこと。
 「くびくびカフェ」は、「京都大学時間雇用職員組合ユニオンエクスタシー」の組合員、井上さんと小川さんが「5年条項」と自分たちの雇い止めに抗議して京都大学の時計台前に座り込み泊り込み、開いているカフェだ。「5年条項」とは、1年契約の職員の契約更新を4回までとする、つまり、非常勤職員は5年勤めたら自動的に「くび」になるという規定である。
 このようないわゆる「雇い止め」に対しては全国でさまざまな反対運動が繰り広げられている。現在京都大学は一部再雇用を認める見直し案をまとめているが、ユニオンエクスタシーはあくまで5年条項の撤廃を求めている。「見直し案は教授にやさしい案」「検討のテーブルに非常勤職員を入れるべき」との主張ももっともだ。これらの問題についてはユニオンエクスタシー発行のパンフレットや通信にわかりやすくまとめられており、インターネットで見ることもできる。
 約2600人の京都大学非常勤職員の85%は女性であり、「そもそも女性労働の搾取の問題だった」と、ユニオンエクスタシーは鋭く正しく指摘する。女に一人前(男並み)の賃金は必要ない、との発想が差別的な待遇を支えてきたのだ。彼らはここを重視し、婚姻制度を考えるイベントの後援もしている。「くびくびカフェパンフレット」によれば京都大学は「5年問題に対しゼロ回答を行った同日に、男女共同参画推進アクション・プランを発表し」たという。正規職員の女性比率を上げるのも結構だが、2000人もの女性を低賃金で不安定な状態に置いている制度を見直すことこそが喫緊なのではないだろうか。
 「女の人には時間がない」と小川さんは言う。多くの非常勤の女性たちは家事・育児に追われ、会合を持とうにも昼休みしかない。ましてや座り込みなんて…。ところが、長時間の座り込みを決行した主婦たちがいた!舞台は韓国のスーパー(ハイパー)マーケット。ユニオンエクスタシーも上映会をしたドキュメンタリー映画「外泊」(キム・ミレ監督/韓国/2009年)はその勇姿を伝えてくれる。「イーランド争議」として有名なこのストライキはレジ係など非正規労働者の大量解雇に抗議して、女性たちが510日間にわたり売り場を占拠したものだ。それまで「家事と仕事の往復だった」彼女たちは、夫や家族の応援や反対のなか、運動を通して新しい世界に挑んでいく。
 少ない仕事を皆で平等に分け合うのが本来のワークシェアリング。同一価値労働同一賃金、均等待遇があるべき姿だ。自分で自由にワークライフバランスを考え、労働時間を決め、不安を感じることなくのびのびと働く…そんな様子は「均等待遇アクション21京都」制作のビデオ「均等社会は夢ではない」で見ることができる。
 (京都府立大准教授・服飾文化史)▲

0 件のコメント:

コメントを投稿