『主婦パート 最大の非正規雇用』

■正社員の夫たちの問題でもある~『主婦パート 最大の非正規雇用』
 (2010年3月12日 nikkei BPnet)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100310/215138/
 (NPO連想出版 新書マップ編集部 川井 龍介)
 主婦パートは「アリ地獄」。すり鉢状の穴に落ちて、もがいてもはい上がれないアリを想像するとぞっとするが、それとパートで働く主婦は同じというのだ。育児など家庭内の“仕事”もしなくてはいけないという責任があり、その制約から仕事をあれこれ選べるほどの自由はない。低賃金、低待遇でも甘んじるしかない。本書は、こうした主婦パートの置かれた厳しい現状を、さまざまな面から考察する。
 著者は、経営学博士で、スーパーマーケットやファミリー・レストランなどの人的資源管理や組織行動などを専門とする。中高年のリストラや派遣社員の雇い止め、あるいは若者の就職難など、昨今は働くことをめぐる問題が、新書のテーマになっているが、パートについてこれだけ正面からとらえたものは初めてだろう。
 本書にあるように、総務省の「平成一九年就業構造基本調査」によると、正社員は3430万人であるのに対して、非正社員として働く人々は約 1890万人。そのうちパートタイマーは約1300万人で、主婦パートは800万人。つまり、主婦パートは非正社員全体の4割強を占めている。
 ところで、パートとは、パートタイム労働法で「一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い労働者」と定義されている人たちのことで、アルバイトあるいは準社員などと呼ばれている人たちも、この定義にあてはまればパートタイマーとなる。
 ただ、この中で育児や家事を担いながらパート労働をする主婦パートが抱える問題の特殊性を本書は浮かび上がらせる。簡単には辞められないという主婦パートの弱みに企業はつけこんで待遇改善をしようとせず、一方で仕事のできる主婦パートを中心にして、パートでありながら社員並みのあるいはときにそれ以上の役割と責任を負わせる。パートであってもサービス残業をせざるを得ない。
 また、彼女たちの家庭内をみれば、特有の問題があるという。あくまで統計上の結果だが、キャリアをもつ既婚女性であるキャリア・ワイフや専業主婦に比べて、家事・育児に対する夫の協力は少なく、夫婦関係の調和はよりとりにくいというのだ。子供を生んでからそれほど休む間もなくパートの職に就いて、育児と家事に追われて、おまけに夫との関係も調和がとれない。これに介護の問題などが加わってきたらどうなるか。
 こうした主婦パートの置かれた状況を変えるには、雇用関係を変えることが必須で、具体的には「パートタイム正社員」をつくるべきだと著者は主張する。パートの人件費を上げたら経営がもたない、と反論する経営者に対しては、「人件費の削減によって会計上の『生産性』や利益をかさ上げするのではなく、ビジネスの中身をよく検討して『生産性』や利益を向上させるための方策をとり、人件費に見合うようにするのが本物のマネジメントである」と、力を込める。
 そもそもは1950年代後半に大丸百貨店東京店がパートタイマーという名称で人を募集したのが始まりだというパートは、いまや日本の産業を下支えしている。パートの低賃金、低待遇は、正社員の待遇をも下げる現状につながっているということを考えれば、主婦パートの問題は、正社員として働く夫たちの問題でもあることがわかる。▲

◆『主婦パート 最大の非正規雇用』本田一成 著/集英社/735円 [kinokuniya]

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