「減るか長時間労働 労基法改正は『不十分』」

■減るか長時間労働 労基法改正は『不十分』
 (2010年4月22日『東京新聞』[暮らし])
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2010042202000072.html
 長時間労働は、働く人の健康を脅かし、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)の実現の障壁にもなる。四月に、働き過ぎ解消を目指し、残業代の賃金割増率を引き上げる改正労働基準法が施行された。働きやすい職場は増えるのか。企業の取り組みはどうなるのか。 (服部利崇)
 関東地方の大手自動車メーカーの工場で、エンジン部品管理などを担当する正社員男性(58)の勤務は週六日。疲れが取れず、体への負担は増す一方だ。
 二〇〇八年秋のリーマン・ショック以降、激減した生産量は、中国向け輸出で回復。昨年十二月からは残業も再開された。平日は連日残業で約十時間勤務。大型連休には工場が休業するため、今月から土曜日も八時間働いている。
 「『派遣切り』で業界が批判を浴びて以来、会社は期間従業員や派遣労働者の採用に慎重で、現場は人手不足。長時間労働という形でしわ寄せが正社員にきた」と男性は嘆く。
 トヨタの大規模リコールの余波か、会社の品質管理チェックはこれまで以上に厳しい。「ミスは許されず、肉体的にも精神的にも疲れる。このペースで残業すれば事故のリスクが高まりかねない。人を増やしてほしい。これでは労働者の健康は守られない」
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 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、事業所規模三十人以上で、パートなど非正規雇用も含めた全労働者の年間総実労働時間は減少傾向だが、フルタイム労働者に限れば年二千時間前後で高止まり状態。週六十時間以上働く人もまだ多く、〇九年の総務省労働力調査では全体の9・2%。子育て世代の三十代男性に限れば18%だ。
 一日に施行された改正労基法も長時間労働抑制が狙いだ。月四十五時間など残業の「限度時間」を超えた場合、通常の賃金に対して25%を超える割増率を設定するよう努力義務を課した。さらに、残業が月六十時間を超えたときの最低割増率は50%と義務づけた。厚労省監督課は「企業にとって50%はかなりの負担」と、残業抑制効果に自信を見せるが、企業の対応は分かれるとの指摘も出ている。
 一層の時短に取り組む企業がある一方、小手先の対応で済ませる企業も多いとみる大和総研の人事コンサルタント広川明子さん(34)は、「(残業代支払い義務のない)管理監督者扱いにするなど、人件費削減に走り、肝心の長時間労働を見直さない企業もあるのでは」と分析。表に出ない形でサービス残業が増えるとも懸念している。
 中小企業への割増率50%適用が見送られたことから、改正法の中身が不十分、との声も上がっている。労働弁護団常任幹事の佐藤正知弁護士(36)は、「大部分の労働者が働く中小が除外されたら、本気で長時間労働を減らす気がないと、思われても仕方がない」と、ばっさり。割増率についても、「残業させるぐらいなら新たに一人雇う方が得、と思える割増率にしないとダメ。せめて100%は必要だ」と迫る。
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 正規労働者より待遇が低い非正規労働者も深刻だ。生活費を稼ぐため、仕事のかけ持ちを強いられる人がいるなど、法改正の恩恵は受けにくいのが現実。
 「時給は下がり、貯蓄もできない」。非常勤の臨床心理士として、千葉県の児童養護施設で働く木村秀(まさる)さん(32)は、大学講師など三つの仕事のかけ持ちで、なんとか手取り月計三十万円を稼ぐ。施設では月十六日のフルタイム勤務。虐待を受けた児童のセラピーのほか職員のケアも担当し、残業は日常茶飯事だ。「本当にこのまま続けていけるのか」。不安ばかりが募っている。▲

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