「『派遣』続く生活不安 直接雇用後『雇い止め』も」

■『派遣』続く生活不安 直接雇用後『雇い止め』も
 (2010年7月2日『中日新聞』[暮らし])
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2010070202000082.html
 派遣労働者の不安定な状況が続く。2008年秋のリーマン・ショック以降に相次いだ「派遣切り」を受け、製造業派遣の原則禁止などを盛り込んだ労働者派遣法改正案は、先の国会で成立に至らず継続審議に。規制緩和から強化に転じる改正の議論は先送りされ、労働者の思いは置き去りにされている。 (福沢英里、竹上順子)
 「派遣で働いた五年七カ月は時間の無駄でした」。昨年三月まで、派遣社員として大手電気機器メーカーに勤めていた三重県四日市市の男性(29)は、悔しさをぶつける。
 飲食店の雇われ店長などを経て二〇〇三年八月、メーカーの工場で働き始めた。高温のプレス機を使い、部品を成形する仕事。作業は多岐にわたり、必死で技術を覚えた。
 仕事を任され、やりがいを感じるように。事務職で派遣から正社員になった人がいると聞き「頑張れば自分も」と張り切った。だが昨年二月「派遣先の業績が悪化した」と解雇を言い渡された。男性は制限期間を超える派遣などの違反があったとして直接雇用を求め提訴。昼間は職業訓練、夜は居酒屋でアルバイトの生活を送る。
 岐阜県の工作機械工場で働いていた男性(40)が派遣切りされたのも昨年三月。派遣会社に「機械加工の技術が身に付く」と誘われ四年前、地元の九州を出た。だが作業は雑用ばかり。工場で中途採用の正社員のさまつな指導係も担わされ、機械加工の実務は全く学べなかった。
 「派遣された自分と正社員とでは、扱われ方が違う」と現実を思い知った。「派遣は使い捨て。派遣会社と派遣先がもうけるだけ」と言い切る。
 派遣問題に詳しい名古屋大の和田肇教授は「労働者派遣法が施行された一九八〇年代後半と違い、今は家計の担い手が派遣で働いている」と指摘。「派遣は雇用の調整弁」という企業の考え方を変えないと、失業問題はさらに深刻化すると警告する。
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 一度、派遣で働き始めると「安定」への道が険しくなる。
 「派遣は現代の身分制度」と語るのは、愛知県の大手通信会社に派遣されている男性(43)。大学卒業後、東証一部上場会社に勤めたが病気で退職。仕事がある時にだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣で働き始めた。
 不安定な立場を脱しようとパソコンの資格を取り、派遣会社の契約社員に。だが年収は三百万円に届かず、妻のパート収入を合わせて一家四人が何とか暮らす。「しょせん、派遣は派遣。欧米のように同一価値労働、同一賃金の仕組みにしてほしい」と訴える。
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 継続審議になった派遣法改正案では、実態は派遣なのに業務請負に見せかける「偽装請負」などの違法行為があった場合、派遣先企業に労働者の直接雇用を義務づける制度が盛り込まれた。だが有期雇用でいいため、「雇い止め」の恐れがある。
 これまでにも、偽装請負を告発して派遣先に直接雇用されたものの、期間工だったため期間満了を理由に雇い止めされた例がある。労働問題に詳しい鷲見賢一郎弁護士は「有期雇用では企業側が簡単に、告発に対する“報復”ができる」と指摘。期間の定めのない雇用契約とするなど正社員との「均等待遇」の保障を求める。
 非正規労働者の相談を受ける東京ユニオンの渡辺秀雄執行委員長は「有期かつ間接雇用の派遣労働は、矛盾の大きい雇用形態。雇用の入り口から規制すべきだ」と訴えている。▲

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